お父さん、あなたという人は・・・ (委員長)
しばらくぶりに帰省したおり、
父親と少しの間ですが一緒にお茶を飲みました。
色々あって、
まだ私が赤ん坊だった頃に養育を放棄した人だから、
ほとんど顔を合わせたことがなかったんですが、
私が社会的には一人前といってもよい状態になるにつれ、
わだかまりも少しずつ溶け去り、
最近ではメールなどもしています。
「体はもういいの?」
体調を崩して
入院したと聞いていました。
再婚して、子どもも二人産まれ、
二人とも就職したと安心したように語っていた父。
どっと疲れがきたんでしょうか。
私とよく似た顔がやつれていて、
なんだか前にあったときよりも
痩せたみたいです…
「まあ、まずまずといったところだなあ……」
「…そう」
しばらく、黙りこくってお茶を飲む。
いいんです
会話なんてなくたって。
父親と並んでお茶を飲むなんて、
そんな日が来るなんて、
子どもの頃の私には、本当、思いもしませんでした。
お父さん……
あなたの元で育った子どもたちが
無事に巣立ったように
私もまた
こうして元気に生きています。
私のことは大丈夫だから
これからはどうか
あなたが選んだ女性と
夫婦ふたりの生活を
心安らかにおくってほしい……
「ところで、折り入って頼みがあるんだが」
「なあに?」
「30万円、貸してほしいんだ」
ブフッゲホッゴホッゴホッゴホッ!
「さ・さんじゅうまんえんんん!?」
「来週までに」
「らいしゅうぅぅぅぅぅ!?(その日は金曜日)」
そうきますかっ!!
「早めの改行」&「センタリング」でポエム気分にひたってるところへ、
随分ナイスなハンマーパンチをおみまいしてくれるものですねえぇっっ!!!
「先月、父さん入院しただろ」
ぐっ
そう、どんな親だろうと、病に倒れたとあっては見捨てておけない。
入院費用が払えないと泣きつかれ、
なけなしの定期預金をはたいて10万円都合したばかりです。
つまりその、
私も貯金なんてもうないんです。
そりゃあね、貸して差し上げたいのはやまやまですよ。
でも、無いものは無いんです。
でも……
30万円、その使い道によっては、私がどこかから借りてでも作る覚悟を決めました。
同年代の大半は中年太りだというのに、転べば折れそうに痩せ衰えた細い体。頬からも肉が落ちて眼ばかりが大きく見え、時折疲れたように目頭を押さえています。
もしかしたら、先月の入院でもっと重い病気が見つかったのかもしれない。
もしかしたら、手術が必要な病気かもしれない。
もしかしたら、もしかしたら……
「10万円は、先月入院して働けなかった間の生活費だ」
はい?
生活費?先月の?
「あと10万円は、こういう突然の入院とか、もしもの時のために貯金するんだ。
備えあれば憂いなしっていうだろ」
貯金?もしものための?
「残りの10万円はな」
(ちょっと涙ぐみ)
「……父さん、この何十年という間、
お前になんにもしてやれなかった。
大学も行かせてやれなかった。
父さんの勝手で
つらい思いさせた……。
だからせめて、
先月父さんにくれると言った10万円、
お前にきちんと返したいんだ。
(眼をうるませて)
な、受け取ってくれ。
お父さんの気持ちだ」
はっ
いかんいかん
あまりにも奇怪な申し出に目の前が白くなってしまいました。
えっと、
うまく説明できませんが、
ものすごく理不尽な申し出であることは間違いないと。
「毎月2万円ずつ、夏・冬のボーナスで3万円ずつ返す。
そしたら1年で全額だろう?」
2万円×12ヶ月+3万円×2回=30万円
今回要求額30万円+先月の10万円=40万円
パーパ、大学出たんですよね?
『分数のできない大学生』の時代じゃないうえに算数ですよパーパ。
「なんとか来週までに30万円…」
生活費と貯金と私への返済のためのお金が、
何故来週までに必要なのか?
わけわかりません。
もうだめです。
そんな金ない、
とはねつけました。
そんな貯金ない、
とお断りしました。
するとパーパ、
「貯金がないなら、
借金してくれ。
お前は公務員なんだから、
利子ゼロで借りられるんだろ?」
寝言は寝て言ってください。
*誤解のないよう念のため言っときますが、公務員にそんな特典ありません。
つっこみポイント満載な状況に出会うと、ひとは言葉を失うんですね。
やあ勉強になるなあっ(壁に拳を打ちつけながら |