12 湯飲み


 にんじんは、もう二度と食事のさい、葡萄酒を飲まないだろう。 かれはここ二、三日のうちに、葡萄酒を飲む習慣を、家族のものや家にくる連中をびっくりさせてしまうほど、あっさりと、なくしてしまったのである。 最初かれはこういった。ある朝、ルピック夫人が、いつものように、かれに葡萄酒をつごうとしたときのことだ。
 ――お母さん、いらないよ。喉がかわいていないもの。
 夕飯のときも、かれは、またいった。
 ――お母さん、いらないよ。喉がかわいていないもの。
 ――おまえも経済的になったね。と、ルピック夫人はいう。みんなも喜ぶよ。
 こうして、かれは、その初日の朝から晩まで、葡萄酒を飲まなかった。気温もおだやかだったし、それに、ただ、喉がかわかなかったからである。