にんじんは道ばたで一ぴきのもぐらを発見する。それは、煙突掃除のようにまっくろだ。さんざん玩具にして遊んでしまうと、こんどは殺してしまおうと決心する。かれは何回となく空中にほうり投げる。うまく石の上に落ちてくるように、念を入れて。
最初は、万事ぐあいよく、順調にいく。
早くも、もぐらの脚は折れ、頭は割れ、背は砕ける。あんがい簡単にくたばってしまうものらしい。
ところが、にんじんはびっくりした。もぐらってやつは、どうやっても死なないんだ、ということに気づいたのだ。家の屋根をふくときのように高く、天まで投げてみても、ぜんぜんむだで、効果は少しもありはしない。
――あきれ果てたやつだな! くたばんねえや。
まさしく、血痕のついた石の上に、もぐらはたたきつけられて、べったりとしている。脂肪でいっぱいの腹が、煮こごりのようにふるえている。そして、このふるえが、いかにも生きているといったように錯覚させる。
――あきれ果てたやつだな! 奮然としたにんじんが叫ぶ。まだくたばんねえのか!
かれはふたたび拾いあげ、罵りわめく。それから、やり方を変える。
まっ赤になり、目には涙を浮かべ、もぐらに唾を吐きつける。そして、力いっぱいに、石に向かって、微塵に砕けよとばかりに投げつける。
しかし、ぶざまなその腹は、相も変わらず動いている。
にんじんがいきり立って叩きつければ叩きつけるほど、もぐらは、ますます死なないようにみえてくる。
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