08 鶴嘴(つるはし)

 兄のフェリックスとにんじんが並んで仕事をしている。二人は各自鶴嘴をもっている。兄のやつは、蹄鉄屋にわざわざ誂えさせた鉄製のものだが、にんじんのは自分でるくった木製のものだ。二人は畑いじりをしている。せっせと働いている。懸命に競争をしている。するととつじょ、まったく思いがけない瞬間に(不幸というものが起こるのは、まさにいつでも、そうした瞬間である)、にんじんは額のまん中を、鶴嘴で一撃された。
 それなのに、ことは逆で、じきに、兄のフェリックスをベッドに運びこみ、慎重に横にしてやらなければならない。 弟の血をみたとたんに、気分がすっかり悪くなってしまったのだ。 家族一同は集まり、爪先立ってのぞきこんでいる。 そして、溜息をつき、気づかわしげにいう。
 ――塩はどこだ?
 ――よく冷えた水を少し。こめかみを冷やしてやらなきゃ。
 にんじんは机にのぼり、みんなの頭の間から、肩ごしにのぞきこむ。かれの額には、布切れが巻かれているが、それが、もう赤く染まっている。 血が滲み、一面にひろがったのだ。
 ルピック氏がにんじんにいった。
 ――えらい目にあったな!
 傷口に包帯を巻いてやった姉のエルネスチーヌは、
 ――バターをくり抜いたみたいだわ。
 かれは悲鳴をあげなかった。あげてみても、なんの効果もないことを、前もって注意されていたからである。
 そうこうするうちに、兄のフェリックスが片方の目をあける。つづいて、もう一つの目を。 恐ろしい思いをしただけのことで、なにごともなかったのだ。顔色がだんだんよくなってくると、しだいに、不安や恐怖が、みんなの心から去って行く。
 ――いつものやつさ! ルピック夫人がにんじんにいう。おまえ、注意できなかったのかい。ばかな子だね。