兄のフェリックスとにんじんが並んで仕事をしている。二人は各自鶴嘴をもっている。兄のやつは、蹄鉄屋にわざわざ誂えさせた鉄製のものだが、にんじんのは自分でるくった木製のものだ。二人は畑いじりをしている。せっせと働いている。懸命に競争をしている。するととつじょ、まったく思いがけない瞬間に(不幸というものが起こるのは、まさにいつでも、そうした瞬間である)、にんじんは額のまん中を、鶴嘴で一撃された。
それなのに、ことは逆で、じきに、兄のフェリックスをベッドに運びこみ、慎重に横にしてやらなければならない。
弟の血をみたとたんに、気分がすっかり悪くなってしまったのだ。
家族一同は集まり、爪先立ってのぞきこんでいる。
そして、溜息をつき、気づかわしげにいう。
――塩はどこだ?
――よく冷えた水を少し。こめかみを冷やしてやらなきゃ。
にんじんは机にのぼり、みんなの頭の間から、肩ごしにのぞきこむ。かれの額には、布切れが巻かれているが、それが、もう赤く染まっている。
血が滲み、一面にひろがったのだ。
ルピック氏がにんじんにいった。
――えらい目にあったな!
傷口に包帯を巻いてやった姉のエルネスチーヌは、
――バターをくり抜いたみたいだわ。
かれは悲鳴をあげなかった。あげてみても、なんの効果もないことを、前もって注意されていたからである。
そうこうするうちに、兄のフェリックスが片方の目をあける。つづいて、もう一つの目を。
恐ろしい思いをしただけのことで、なにごともなかったのだ。顔色がだんだんよくなってくると、しだいに、不安や恐怖が、みんなの心から去って行く。
――いつものやつさ! ルピック夫人がにんじんにいう。おまえ、注意できなかったのかい。ばかな子だね。
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