いつものようにルビック氏は、机の上で、獲物袋をあける。中味は二ひきのしゃこだ。兄のフェリックスは、壁にかかっている石盤にそれを書きつける。それは
かれの役なのだ。子どもたちには、それぞれぞれ各自の役がある。姉のエルネス チーヌは、獲物の毛をはぎとり、羽をむしりとる。にんじんの仕事はなにかとい
えば、もっぱら、手傷をうけたままでいるやつの殺しである。この特権をあたえ られたのは、かれが血も涙もない心の持ち主で、万人周知の冷酷さをもちあわせ
ているからだ。
二匹のしゃこは、あばれる。首を動きまわす。
ルビック夫人−−なぜ早く殺ってしまわないんだい?
にんじん−−お母さん、ぼく、石盤書きのほうにしてほしいよ。
ルビック夫人−−石盤はおまえには高すぎる。
にんじん−−それなら、羽むしりがしたいな。
ルビック夫人−−それは男の子のすることじゃないよ。
にんじんは二羽のしゃこを手にとる。だれかが親切にも、やり方を指示してく れる。
−−ほら、そこで締めて、そう、頚のところを、羽を逆にして。
一羽ずつ両手につかみ、背なかの後ろで、かれはやり始める。
ルピック氏−−一ぺんに二羽か、驚いたやつだな!
にんじん−−早く片づけたいもの。
ルピック夫人−−神経質ぶるんじゃないよ。心のなかじゃ楽しんでいるくせに。
しゃこは痙攣をおこしながらも、抵抗する。翼をばたつかせ、羽をまき散らす。
ぜったいに死にたくはないのだろう。かれは、一人やそこらの友だちなら、片手 でもって、もっと容易にしめ殺せるだろう。両膝の間にしゃこをはさんで、おさ
えつける。顔を赤くしたり、白くしたり、汗だらけになり、何もみまいと上のほ うをむきながら、いっそう強くしめつける。
しゃこも執拗に頑張りつづける。
なんともうまく片づかないので、すっかり怒ってしまったにんじんは、しゃこの脚をつかみ、靴の先で頭をけとばす。
−−驚いたな! なさけ知らず! なさけ知らず!
兄のフェリックスと姉のエルネスチーヌがこう叫ぶ。
−−手際のいいつもりなのさ、とルピック夫人はいう。ああ、かわいそうなもん だね、あたしがこんなふうにかきむしられるんだったら、ああ、考えただけでもぞっとするよ。
年期のはいった狩猟家のルピック氏でさえも、胸がむかむかしてきて、外にいってしまう。
−−終わったよ! 机の上に死んだしゃこを放りなげながら、にんじんはこう いう。
ルピック夫人は、そのしゃこを、なんどとなくひっくり返す。血だらけの、砕けた小さな頭蓋骨から、少しばかり脳味噌が流れでている。
−−早くとりあげておけばよかったんだよ。これじゃ汚らしくってしようがない。
兄のフェリックスがこれに受け答える。
−−ほんとに、いつもよりうまくできなかったな。
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