01 めんどり |
――きっとそうだわ、とルピック夫人がいう。また、オノリーヌは鶏小屋の戸を閉め忘れたんだわ。
――フェリックス、おまえ、戸を閉めてきてくれるかい? ルピック夫人は、三人の子供たちのなかでいちばん年上の子にきいてみる。 ――ぼくがここにいるのは鶏の面倒をみるためじゃないよ、と、フェリックスが答える。彼は蒼い顔をした、ものぐさな、そして臆病な少年だ。 ――だったらエルネスチーヌ、おまえどうだい? ――やだわ、お母さんたら、あたし、こわくって! 兄のフェリックスも、姉のエルネスチーヌも、ほとんど顔もあげないで返事をする。かれらは机に肘をつき、額と額をふれあわんばかりにして、読書にむちゅうになっている。 ――そうだったわ、あたしったら、なんて間が抜けてんだろう! と、ルピック夫人はいう。 ――なぜ気がつかなかったのかしら。にんじん、鶏小屋を閉めにいっておいで! 彼女は、末の子にこんな愛称をつけている。なぜなら、かれの髪の毛は赤く、顔はそばかすだらけであるからだ。机の下で、なにをするでもなく遊んでいたにんじんは、立ち上がると、おずおずしながら答える。 ――でも、母さん、ぼくだってこわいよ。 ――なんですって? ルピック夫人はききかえす。大きなくせに! 冗談をいうんじゃないよ。さあ、早くおゆき! ――知ってるわよ、牡羊みたいに大胆なくせに。姉のエルネスチーヌがこういう。 ――こいつには、こわいものなんかないさ。こわい人だっていないもの。と、兄のフェリックスも加勢する。 ――だったら、あかりぐらいはぼくに照らしてね、と、にんじんはいう。
――ここで待っているわね、と彼女はいう。 しかし、強い風の一吹きが、あかりをゆらし、消してしまったので、彼女は急に恐ろしくなり、すぐに逃げていってしまう。 にんじんは、へっぴり腰をして、踵を地面にうちこみながら、闇のなかでふるえ始める。闇はとても深く、かれは盲になったような気がする。ときどき突風が、かれを、氷の敷布のようにつつみ、運び去ろうとする。狐が、また、狼さえもが、指や頬に息を吹きかけないだろうか?と、かれは心のなかで思う。闇を一気に突き抜けるには、前かがみになって、あて推量に、鶏小屋をめがけてつっ走るのが最善のことのようだ。かれは手探りでとの鉤をつかむ。かれの足音にびっくりした鶏たちは、とまり木の上で、ここっ、ここっ、となき叫びながら動きまわる。にんじんはどなりつける。 ――静かにしろよ。ぼくだぜ! ――にんじん、これからは毎晩、おまえが閉めにいくんだよ。
|