日本探偵小説全集5 浜尾四郎集
浜尾 四郎
創元推理文庫 ¥1200
収録作品
「彼が殺したか」「悪魔の弟子」「死者の権利」「夢の殺人」
「殺された天一坊」「彼は誰を殺したか」
「途上の犯人」「殺人鬼」
「殺人鬼」以外は全部短編です。検事や弁護士の経験を活かし、法律や正義の矛盾を理知的に突き詰めていく作品が多いです。というかほとんどがその系列で、正直読みすすめていくたびに「あーまただよ」という感じも否めません。時間をおいて一遍づつ読んでいけばその度面白いと思います。それぞれの完成度は高いのですから。
唯一の長篇「殺人鬼」。いや、面白かった。
事業で成功した富裕な一家。はた目には人もうらやむような暮らしにも関わらず、家族の間に漂うぎこちない雰囲気。そして一人づつ殺害されていく…という、作中にも出てきますがヴァン・ダインのグリーン家殺人事件を彷佛とさせるストーリーです。が、決して二番煎じに堕ちる事無い展開を見せます。私は思う様犯人の罠にはまりました。
一番好きなのは「殺された天一坊」です。これは探偵小説や推理小説ではないのですが、大岡越前守の「大岡裁き」を別の視点から見つめ、正義とは一体何かを改めて考えさせられます。『本当の親ならば子どもが痛がるまで腕を引っぱれるはずがない』というあの有名なエピソードも出てきます。私は目からウロコが落ちました。むしろこっちの解釈の方がピンと来ます。お薦めです。
検事、弁護士を経験してきただけに、作品全体が理性的です。そこに恋愛問題(軽く同性愛テイストなのもある)や遺産相続など人間の暗部が絡んでくるのですが、理性的な中での情念は一層暗い炎を放ち、際立ちます。四〇という若さで亡くなられた事が残念です。
(デスク 03.9.28)
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