文:小川未明
絵:酒井駒子
偕成社 ¥1,400
「人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。
北の海にも棲んでいたのであります。」
何かもの悲しい書き出しで、この話は始まります。
ある信心深い老夫婦が捨てられていた子供(人魚)を拾い、大事に育てる。
長じた娘は少しでも恩返しになればと、蝋燭に絵を描きそれがお守りにもなるということでよく売れる。
ここまではよくある話です。
ですが、この童話では老夫婦は心変わりをします。大概の童話では善い人はずっと善い人のままなのですが、この老夫婦はある日村にやってきた香具師に人魚を売り渡してしまうのです。
また、この人魚が捨てられていたのは山の上のお宮なのですが、そのお宮も人魚の描いた蝋燭をともすと海難事故に遇わないということで霊験あらたかな神様だと評判があがるのですが、娘が連れていかれる間際に塗った赤い蝋燭を見たものはかならず海難事故に遇って死んでしまう、という事で一気に寂れていきます。
童話と呼ぶにはあまりにもリアリティ溢れる心理描写。移ろう人の心を叙情的な筆致で巧みに描写しています。
ラストにもどこにも救いはありません。ただ、あるがままといった感じです。
また、絵も文章にぴったりな暗さ(誉めてます)です。私は中表紙の隣の絵が一番好きです。
(文責:デスク 03.6.1)
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